二つの定義は同値である.
実際,先のように半順序$\le$によって定義された束において$\{x,\ y\}$の下限と上限とを$x\wedge y$と$x\vee y$とで表せば,これらは上の法則に従う.
逆に,この法則に従う二項演算$x\wedge y,\ x\vee y$の定義された集合$L$において,$y\wedge x = x$であることを(あるいは$x\vee y = y$であることを)$x\le y$で表わせば,関係$\le$は$L$の順序であり,$L$の任意の2元$x,\ y$に対し,$x\wedge y$と$x\vee y$とは,この順序に関する$\{x,\ y\}$の下限と上限となる.
例
- 任意の集合$S$に対して,そのべき集合$\mathcal{P}(S)$を集合の包含関係によって順序集合とみなすと,$A,\ B\in\mathcal{P}(S)$に対し,$A\cap B$と$A\cup B$とが$\{A,\ B\}$の下限と上限となるので,この順序集合は束となる.
- 上の例で特に$S$として唯一つの元からなる集合をとれば,$\mathcal{P}(S)$は$S$自身と空集合$\phi$とから成る.これらを$1$と$0$とで表し$\cap$と$\cup$とを$\wedge$と$\vee$とに書き換えれば,$1\wedge 1=1,\ 1\wedge 0=0\wedge 1=0\wedge 0=0,\ 1\vee 1=1\vee 0=0\vee 1=1,\ 0\vee 0=0$が成り立つ.
従って逆に,集合$T=\{1,\ 0\}$上の二項演算$\wedge$と$\vee$をこれらの式によって定義すれば,$T$は束である
最大元$1$と最小元$0$とをもつ分配束において,さらに各元$x$に対して$x\wedge\lnot x=0,\ x\vee\lnot x=1$をみたす元$\lnot x$が存在するとき,この束は
ブール束(
ブール代数:Boolean algebra)であるといい,$\lnot x$を$x$の補元とよぶ. 補元は唯一つに定まる.
先に挙げた例の$\mathcal{P}(S)$と$T$とはブール束である.
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| 演算 | 命題論理 | ブール代数 | 備考 |
| 論理積 | $\land$ | $\cdot$ | $\cdot$は省略可能 |
| 論理和 | $\lor$ | $+$ | |
| 否定 | $\lnot$ | $\overline{ }$ | |
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ブール代数の公理
| 交換法則 | | $A+B=B+A$ | | $A\cdot B=B\cdot A$ |
| 分配法則 | | $A\cdot(B+C)=A\cdot B+A\cdot C$ | | $A+(B\cdot C)=(A+B)\cdot(A+C)$ |
| 単位元 | | $A+0=A$ | | $A\cdot 1=A$ |
| 補元 | | $A+\overline{A}=1$ | | $A\cdot\overline{A}=0$ |
ブール代数の定理(双対の原理)
ブール代数では,元の式の$+$と$\cdot$,$0$と$1$を交換してできる式を,元の式の「双対」(dual)と呼ぶ.
ブール代数において,ある定理が成り立つならば,その定理の双対もまた成り立つ.
ブール代数の定理
| 結合律 | | $A+(B+C)=(A+B)+C$ | | $A\cdot(B\cdot C)=(A\cdot B)\cdot C$ |
| 吸収律 | | $A+(A\cdot B)=A$ | | $A\cdot(A+B)=A$ |
| 巾等律 | | $A+A=A$ | | $A\cdot A=A$ |
| | $A+1=1$ | | $A\cdot 0=0$ |
| ド・モルガン | | $\overline{A+B}=\overline{A}\cdot\overline{B}$ | | $\overline{A\cdot B}=\overline{A}+\overline{B}$ |
| 二重否定 | | $\overline{\overline{A}}=A$ |